小さな命への涙

いつもは私より早く帰宅している娘が、遅い日がありました。
「何かあった?」
「猫を弔って来た」
「えっ?」

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「えっ?」

帰宅途中、事故に遭ったらしい猫が痛みでもがいてたそうです。
痛みに苦しみながらも生きているその猫に何をどうして良いかわからず、スマホであれこれ検索をしていた時、娘より年上と思われる女性が通りかかったそうです。
病院に連れて行こうという話になり、現場前の飲食店の方からタオルをもらい、その猫を女性が抱き抱え、タクシーに乗りました。
娘はその後ろを自転車でついて行ったとのこと。
一人では躊躇していた娘でしたが、しっかりと肝の座った方が現れ気持ちが固まったようです。

獣医さんに診ていただいた結果、頭部・顎の損傷があり、耳や鼻からも出血があったようです。
もう治療は難しい状態でしたが、MRIのある病院へ行き万が一治療ができたとしても助かる可能性は低く、また100万くらいの医療費がかかるとのこと。
そしてこのままでいると、甚大な痛みの中、確実に亡くなるという診断でした。

二人で話し合い、せめて痛みを取り除き、穏やかに逝かせよう・・・安楽死の処置をお願いしました。

苦しみから解き放たれ、穏やかに横たわったその猫の体をさすってあげ、二人でしばらく泣いたそうです。
耳がカットされている、通称さくら猫の女の子でした。
獣医さん曰く、歯の状態から診てそんなに若い猫では無いとのことですが、娘がさすってあげると毛がフワッとしていたと言いますから、栄養状態が良かったのでしょう。
きっと餌をあげる人がいたんだと思います。
片隅で生きてきたその猫にも、寄り添って命を繋げてきた人が居たということはせめてもの救われる思いです。

遺体は単体では無いけど、簡易ではなく焼いてもらえるようお願いし、その費用も含めて診察費用等を二人で折半しました。
女性の方が多く出してくださったとのことで、申し訳ないです。

帰って来てポロポロと涙を流す娘。
「パパだったら躊躇しないですぐ行動したはずなのに・・・私は出来なかった・・・」
そんな娘に私は「ありがとう」を繰り返しました。
小さな命の最期に勇気を持って添い遂げてくれて、そしてその命に涙を流してくれて、ありがとう。

次の日、通勤途中にその女性と出会ったそうです。
現場前の飲食店の人にタオルをもらったので、代わりのタオルを買ってお礼を言いに行くとのこと・・・「真っ当に生きてる」という言葉がぴったりの方です。

思い出しては悲しくなるであろう娘に「大丈夫?」って聞くと、「時々あの猫ちゃんのことを思い出してあげないといけないから・・・」
悲しくても忘れず、思い出すことで生きていた証を刻んでいたい・・・そんな思いを大切にして欲しい。

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「診療費、カンパしてあげて」

娘と二人暮らしの中では時々反発があったり喧嘩もするけれど、名も無き小さな命に心を添える娘で良かった。

商売をしてると数字や利益で目の前がいっぱいになってしまい、それが最重要事項に思える時もありますが、人間としてそれではいけないと、真っ当な場所に引き戻してくれた娘に感謝です。

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ウチの近所のさくら猫ちゃんたち。
また会いに行こう。








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